弁護士法人英明法律事務所の事務所報『Eimei Law News 』より、当事務所の所属弁護士によるコラムです。

賃金の支払をめぐる問題

 〜会社都合で給料の支払いが遅れることは許されるか?

    中小企業法務研究会  労働部会  弁護士  木山 生都美 (2014.02)

Q. A社では、メインの取引先B社より、事務処理上の問題により、売掛金の支払処理が5日遅れる旨の連絡を受けた。A社社長は、B社からの支払を従業員の給料支払いにあてようと考えていたため、支給日に、会社のお金をかき集めて、本来の給料の半分を支給し、従業員に「全額支払うと資金繰りが厳しくなるので、残り半分は5日後に必ず支払う。」と通告した。 なお、A社は支給日について、「原則として★日に支払う」という規定をおいていた。 C従業員は、「今すぐに給料を支払ってほしい。入金が遅れるのは法律に反するのではないか。」と主張している。
A社都合で給料の支払いが遅れることは許されるか?


A. 労働基準法は、労働者の生活の糧である賃金が全額確実に労働者の手に渡るようにするため、次のとおり「賃金支払の五原則」を定めています(労働基準法24条)。
  1. 通貨払いの原則(お金で支払う)
  2. 直接払いの原則(本人に支払う)
  3. 全額払いの原則(全額を支払う)
  4. 毎月1回以上払いの原則(毎月1回以上支払う)
  5. 一定期日払いの原則(決まった日に支払う)


 A社の対応は、この原則のうちB全額払いの原則D一定期日払いの原則に違反し、許されません。そのためA社は、従業員に支払いを待ってもらうために、個別に従業員の同意を得る必要があります。

 A社は、給料の支払延期を従業員に一方的に通告しているに過ぎません。C従業員以外の従業員から何ら申し入れがなかった場合、基本的には個別に同意を得たといってよいと思いますが、会社としては、あくまで従業員の個別の同意を得る必要があることを念頭に置いておくべきでしょう。またC従業員は同意していませんので、原則どおり、A社は、C従業員には全額払わざるを得ません。B社の支払遅延は理由になりませんし、その期間が例え5日間であっても許されないのです。

 ところで、A社は、支給日について「原則として」との定めをおいていますが、この規定を根拠として、3日後に支払うことを正当化することはできません。D一定期日払いの原則の趣旨は、支給日が一定しないことによる労働者の生活上の不安定を防止することにあります。「原則として」という定め方は、その日に支給しない可能性を含みますから、特定されたとはいえないと考えられるからです。

 賃金は労働者の重要な生活の原資ですから、経営者は常に労働基準法における賃金支払いの五原則を念頭に置かなければなりません。経営者は給料支払いの遅延を行う場合には、従業員一人一人に、遅配の原因、会社の財務状況等を根気よく説明し、従業員の個別の同意を得なければならないのです。