弁護士法人英明法律事務所の事務所報『Eimei Law News 』より、当事務所の所属弁護士によるコラムです。

債権回収を考える

  3  リース契約と民事再生

     中小企業法務研究会  債権回収部会  弁護士  吉開  雅宏 (2014.05)

事 例: Xリース会社は、レストランを経営しているY会社に対し、フルペイアウト方式(リース期間中に経費全額が回収できるように、リース料が算定されている)で店内の什器・備品一式のファイナンス・リースを総額8000万円、期間5年間(毎年1600万円のリース料)で設定していた。
   ところが、3年目で、Y社が民事再生手続きを申立てるに至った。本件リース契約には、ユーザーに 民事再生の申し立てがあったときは、契約を解除することができる旨定められていた。

1.はじめに

《事例》において、X社としては、Y社が民事再生の申立てをした以上、契約条項に従い本件リース契約を解除して、店内の什器・備品一式を回収し、その交換価値を未回収債権に充てたいところです。
   しかし、判例は、民事再生手続開始の申立てがあったことを解除事由とする特約が無効であると判断しました。

2.最高裁  平成20年12月16日

「本件特約のうち、民事再生手続開始の申立てがあったことを解除事由とする部分は、民事再生手続の趣旨、目的に反するものとして無効と解するのが相当である。
・・・民事再生手続は、経済的に窮境にある債務者について、その財産を一体として維持し、全債権者の多数の同意を得るなどして定められた再生計画に基づき、債務者と全債権者との間の民事上の権利関係を調整し、債務者の事業又は経済生活の再生を図るものであり(民事再生法1条参照)、担保の目的物も民事再生手続の対象となる責任財産に含まれる。
   ファイナンス・リース契約におけるリース物件は、・・・その交換価値によって未払リース料や規定損害金の弁済を受けるという担保としての意義を有するものであるが、・・・民事再生手続開始の申立てがあったことを解除事由とする特約による解除を認めることは、このような担保としての意義を有するにとどまるリース物件を、一債権者と債務者との間の事前の合意により、民事再生手続開始前に債務者の責任財産から逸出させ、民事再生手続の中で債務者の事業等におけるリース物件の必要性に応じた対応をする機会を失わせることを認めることにほかならないから、民事再生手続の趣旨、目的に反する。」

3.民事再生手続のその後の流れとリース業者の権利行使
      〜田原睦夫裁判官の補足意見〜

田原裁判官の補足意見によると、本判決の結論は、ユーザーがリース料金を滞納した場合のリース契約の解除の可否には影響がなく、倒産手続開始の申立てをした場合の期限の利益喪失条項の効力も、否定してはいないとします。そのため、ユーザーが民事再生手続開始の申立てをした場合、通常、ユーザーはリース料金の期限の利益を喪失するため、リース業者はリース料金の債務不履行を理由にリース契約を解除することができると指摘しております。
   もっとも、ユーザーが、民事再生手続開始の申立てと共に弁済禁止の保全処分の申立てをし、その決定を得た場合、ユーザーは、その保全処分の効果として、リース料金の弁済が禁じられます。そのため、リース業者は、その反射的効果として、民事再生手続開始の申立て以後のリース料金の不払を理由に、リース契約の解除が禁止されます。
   そして、その後、民事再生手続が開始された場合、その開始決定の効果として、再生債権の弁済は原則として禁止されますが(民事再生法85条1項)、弁済禁止の保全処分は開始決定と同時に失効するので、ユーザーは、リース料金について債務不履行状態に陥ります。そのため、リース業者は、別除権者としてリース契約の解除手続等を執ることができることになります。そこで、ユーザーとしては、民事再生手続の遂行上必要があれば、これに対し、担保権の実行手続の中止命令(同法31条1項)を得て、リース業者の担保権の実行に対抗することになります。

4.最後に

民事再生手続に関しては、最高裁の判例による判断が出されたことになりますが、破産手続開始の申立てがなされた場合の特約の有効性については判断されておらず、未だ議論が分かれているところであります。