弁護士法人英明法律事務所の事務所報『Eimei Law News 』より、当事務所の所属弁護士によるコラムです。

労働審判手続

  〜労働審判手続の特徴を理解しよう!

    中小企業法務研究会  士業部会  労働部会  弁護士  木山 生都美(2014.08)

1    労働審判手続とは

   労働審判手続とは、労働審判官(裁判官)1人と労働関係に関する専門的な知識と経験を有する労働審判員2人(労使それぞれから1人ずつ)によって構成される労働審判委員会が、個別労働紛争を、3回以内の期日で審理し、調停による解決を試み、調停により解決しなければ、労働審判を行うという紛争解決手続です。労働審判に対し、当事者から異議の申し立てがあれば、労働審判は失効し、申立てのときに遡って訴えの提起があったものとみなされます。

2    労働審判手続の特徴

(1)裁判官1人と労働関係の専門的な知識経験を有する労働審判員2人(労使それぞれから1人ずつ)によって構成される労働審判委員会が紛争処理を行います。
   労使の審判員の専門的な知識・経験を活かすことで、適正妥当な判断を図ろうとしているのです。

(2)「労働審判手続においては、特別の事情がある場合を除き、3回以内の期日において、審理を終結しなければならない」(労審法15条2項)とされています。
   この3回以内の期日での迅速処理は、労働審判手続きの最大の特徴といえます。これによって紛争の迅速で集中的な解決を目指しています。

(3)「調停の成立による解決の見込みがある場合にはこれを試み」るとして、手続きの中に調停を包み込んでいます(労審法1条)。
   調停による解決が成立すれば、それは裁判上の和解と同一の効力を持ちます(労審法29条)。

(4)調停によって紛争を解決できない場合に、審判が下されます。
   審判を当事者が受諾すれば、紛争は解決しますが(審判は裁判上の和解と同一の効力を持ちます、労審法21条4項)、当事者が受諾できない場合、2週間以内に異議を申し立てるべきこととされています(労審法21条1項)。

(5)労働審判手続きと訴訟手続きは連携しています。当事者から異議の申し立てがあれば、労働審判は失効し(労審法21条3項)、労働審判の申立てのときに遡って訴えの提起があったものとみなされます(労審法22条1項)。
   訴訟手続きへの自動的な移行が行われます。

3    その他の労働審判手続の内容

  1)対象となる事件

「個別労働家関係民事紛争」、すなわち「労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争(労審法1条)。労働組合と使用者間の団体的労使関係上の紛争は、専門的機関としての労働委員会があるので対象から除外、個々の労働者と事業主間の紛争のみが対象となります。

  2)期日指定・呼び出し

第1回期日は、特別の事由がある場合を除き、申し立てがされた日から40日以内の日に指定しなければならないとされています(労審則13条)。民事訴訟の30日以内の日より長くされているのは、主張、証拠の申出等のための準備期間をより長くし、第一回期日を充実させる目的です。
   当事者に対する第一回目の呼出状には、同期日の前にあらかじめ主張、証拠の申出及び証拠調べに必要な準備をすべき旨が記載され、相手方に対する第一回目の呼出状には、答弁書を提出期限内に提出すべき旨が記載されています(労審則15条)。

  3)期日の非公開

労働審判手続は公開されません。ただし、労働審判委員会は、相当と認められる者の傍聴を許すことができます(労審法16条)。

4    労働審判手続のポイント(会社側)

3回以内の期日での集中審理が労働審判手続における最大の特徴といえます。
   3回以内の期日で争点に即して証拠調べをし、調停を試み、調停により解決に至らなければ審判を行うのです。そのためには、申立書・答弁書が実質的なもので、事前準備がよくなされ、各期日が充実した手続きでなければなりません。具体的には、第二回期日において調停案が示されるために、第一回期日において、申立書・答弁書や口頭での反論・再反論などによって争点を確定し、さらには可能な証拠調べも実施する必要があるのです。要するに、労働審判手続では、第一回期日で事件の帰趨が決まるので、はじめから全力投球で、やれるだけのことは全てやる必要があるのです。
   これは、実は、会社側にとっては非常に大変なことであるといえます。
   労働者は、時間をかけて、申立書と証拠を取り揃えてから申し立てることができますが、会社側は、申し立て後40日以内に指定される第一回期日までに、答弁書の作成、関係者からの聴取及び陳述書の作成、その他証拠の収取、証拠説明書の作成、審尋の準備、調停の準備(方針、譲歩可能な和解案の検討)等をしなければならないのです。これはかなり大変です。弁護士側のみならず、会社側の準備も相当大変なはずです。
   なお、この40日間は、申立書の送達、弁護士事務所への相談・受任を含みますので、労働審判手続の準備のために使える日数は、実際には、20日にも満たないかもしれません(会社側が法律事務所にかけこむのが遅くなればなるほど時間がなくなります。)。
   このように、会社にとって、労働審判の申立てがなされた際は、初動が非常に大切であるといえます。
   従って、会社としては、労働審判を起こされたら速やかに会社側の労働事件を取り扱う法律事務所に相談するべきでしょう。