弁護士法人英明法律事務所の事務所報『Eimei Law News 』より、当事務所の所属弁護士によるコラムです。

就業規則

  2  労働者の労働条件としての就業規則

    中小企業法務研究会  士業部会  労働部会  弁護士  木山 生都美(2015.04)

1    就業規則と労働条件

次に、就業規則が、使用者と労働者の間の労働条件に関する権利義務を発生させることについて、簡単に整理します。
   使用者と労働者の間の労働条件に関する権利義務は、本来、使用者と労働者との個別合意=労働契約により、発生します。
   しかし、使用者側が労働者代表等の意見を聴取するだけで一方的に作成できる就業規則で定めた労働条件についても、@合理的な労働条件が定められている就業規則をA労働者に周知させていた場合には(労働契約法7条)、その事業場における労働条件としての効力を持つとされているのです。

2    就業規則と効力関係

(1)就業規則で定める労働条件に達しない労働契約は無効となり(強行的効力)、無効となった部分は、就業規則で定める基準で補充されます(直律的効力)(労働契約法12条)。これを就業規則の最低基準効といい、この場合の就業規則の効力は、労働基準法13条の効力と同じです。

(2)逆に、労働契約で定めている労働条件が、就業規則で定める労働条件を上回る時は、その部分は有効です(労働契約法7条但し書き)。

(3)就業規則で定める労働条件は、労働協約に反してはならず(労働基準法92条1項)、労働協約に違反する就業規則の労働条件は無効となり、労働協約の定める労働条件が労働契約の内容となります(労働契約法13条)。なお、就業規則と労働契約のように、(2)有利原則は労働協約では認められません。

*優劣関係を整理すると・・・?
  労働基準法等の強行法規(これを下回る労働条件は無効)
      ↓
  労働協約
      ↓
  就業規則(労働契約を下回る場合は労働契約優先)
      ↓
  労働契約(労働基準法上の基準を上回る場合、就業規則の基準を上回る場合、就業規則に何ら定めがない場合に有効)

3    就業規則の不利益変更

就業規則による労働条件の不利益変更については、これまで、判例上ルールが積み重ねられてきました。これらの判例のルールに沿って、就業規則の不利益変更について、次の労働契約法9条10条が立法化されました。
   使用者は、原則として、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできません(労働契約法9条)。
   ただし、使用者が変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、「労働者の受ける不利益の程度」「労働条件の変更の必要性」「変更後の就業規則の内容の相当性」「労働組合等との交渉の状況」その他の就業規則の変更に係る事情を総合判断して、合理的なものであれば、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする(労働契約法第10条)とされ、労働者との合意がなくても、就業規則の変更により労働者の不利益に労働条件を変更できるとされているのです。