弁護士法人英明法律事務所の事務所報『Eimei Law News 』より、当事務所の所属弁護士によるコラムです。

判断能力の衰えから生じる危険回避の制度

  〜法定後見制度その9    法定後見人等の職務と権限F

     中小企業法務研究会  後見事業部会  弁護士  平岡  健太郎 (2015.04)

今回は、身上監護の具体的な業務事項の解説の続きです。

  • D  教育・リハビリ関係(教育及びリハビリに関する契約の締結、解除、費用の支払いなど)

これは、生涯学習やサークル活動、各種リハビリに関する事項です。特に高齢者が社会人大学や自治体等主催の各種講座のプログラムや地域でのサークル活動、様々なリハビリ等を行う際に関わる事項で、近年関心が高くなっている分野です。
   社会人大学や各種講座、サークル活動は、受講により認知症等の進行防止に役立つものとして注目されつつあります。社会人大学等の受講は後見事案の場合は難しいかもしれませんが、保佐や補助の事案であれば検討に値するものと思われます。
   各種リハビリは、主に身体的機能の維持・回復のために行うもので、対象者は必ずしも病後等に限られるものではありません。例えば、近年増えつつあるパワーリハビリは、高齢者の老化を防ぎ、要介護化の低減に役立つものとして注目されつつあります。
   この業務は、他の項目の業務とはやや趣を異にし、判断能力の衰えや身体的機能の衰えを防止するという点で、受け身の業務ではなく積極的な業務内容を含んでいます。成年後見人等の新たな活動分野として、頭の片隅にでも置いておいていただければと思います。

ところで、前回、成年後見人等が業務を進めていく上で、本人の意思を尊重した上で「本人のため」になるかどうかを考えなければならないというお話をさせていただきました。
   しかし、この「本人の意思の尊重」に基づく方針は、時として、成年後見人等が考える「本人の保護」に基づく方針との間で対立し、調整を求められることがあります。これは、例えば、成年後見人に与えられた権限の一つである取消権の行使の是非を検討すべき場面等において表れます(取消権の詳細については、次回お話させていただく予定です)。
   成年後見人等の立場からすれば不合理と思われる場合であっても、本人の意思を尊重する方向で進めていくべきであるとの考えがある一方で、ある程度成年後見人が積極的に関与すべきであるとの考えもあります。
   成年後見人等としては、本人がそのような意思決定に至った経緯、本人が認識している生ずべき結果の度合い、生ずべき結果が財産面を含めた本人の福祉に与える影響の度合いなどを判断材料として、対応を決めていくことになるでしょう。
   判断に迷った場合は、専門家や行政等の力も借りて対応すべきです。これにより、判断の遅延を防ぐとともに、後に責任を追及されるような事態の防止にもつながります。